ソプラノ歌手 迫田美帆さんにインタビュー

藤原歌劇団公演「ファウスト」

声が振動となり伝わってくるのがオペラのすごさ。マルグリートの気持ちの変化を音楽とともに感じてほしい。

90年という長い歴史を持つ藤原歌劇団が都民芸術フェスティバルで上演するのはオペラ「ファウスト」。ドイツ語原作の悲劇を、フランス人の作曲家グノーがオペラ化した名作です。日本のオペラは物語だけでなく、ヨーロッパの文化を伝えるもの、そう話す、迫田美帆さんは今回、ヒロインのマルグリート役を演じます。彼女に今回の作品の見どころ、オペラの面白さを語っていただきましょう。

迫田美帆(さこだ みほ)

東京藝術大学卒業。卒業後、一般企業に就職しその間にイタリア各地で研鑽を積む。2015年にサントリーホール オペラ・アカデミー プリマヴェーラ・コース第2期を最優秀の成績で修了。第13回東京音楽コンクール声楽部門第2位。第50回日伊声楽コンコルソ、第86回日本音楽コンクール入選。藤原歌劇団では、2019年「蝶々夫人」のタイトルロールでデビュー。藤原歌劇団団員。アメリカ在住。

ヒロイン、マルグリートの心の揺れ動きを表現したい。

──上演される作品をご紹介ください。

「ファウスト」というとピンとくる方もいらっしゃると思います。ドイツの文豪ゲーテ原作の文学作品「ファウスト」の第一部を切り取り、作曲家グノーがオペラにした作品です。主人公ファウストが悪魔メフィストフェレスと契約を結び、若返るというお話で、私は若くなったファウストが恋に落ちる女性、マルグリートを演じさせていただきます。マルグリートは悲劇に飲み込まれていく役どころですが、オペラでは原作よりもマルグリートにフォーカスしています。彼女がどんな気持ちになるか、悲劇のなかで彼女の気持ちがどう動いていくのか……そういった感情を取りこぼしのないように表現することが大切だと思っています。

──マルグリートの感情の揺れ動きが見どころということですね。

楽譜上には、マルグリートのジェットコースターのような感情の変化がこと細かく書いてあります。グノーが作った繊細な音楽を譜面から読み取り表現する。それだけで十分、お客様に物語やマルグリートの心情が伝わるはずです。もちろん自分の中でも役作りとしてマルグリートの気持ちになろうという想いもありますが、まずはグノーが書いた音楽を丁寧に表現していきたいです。

また、ストーリー的なところでいうと、マルグリートと恋に落ちた後にファウストは彼女の元から去ってしまい、彼の子どもを身ごもったマルグリートはその後、精神的にも病んでしまい、登場時と終幕ではまるで別人になってしまうんです。そういう部分も音楽に表現されていて、きっとマルグリートの気持ちに共感していただけると思っています。彼女のおかれた状況の変化や感情の変化をたくさん見ていただきたいですね。

持ち味であるソプラノの中音域をたくさん聴かせたいです。

──グノーの音楽にはどんな魅力があるでしょう?

メロディーも美しいですし、ハーモニーもまた色鮮やかです。和音をたくさんつかっているのが特徴で、その美しさに驚いていただけるはず。今回は芸達者なメンバーがそろっていて、それぞれのキャラクターが立つような舞台になると思っています。そういった部分もお楽しみいただけるようにしっかり仕上げていきたいですね。

──マルグリートの歌唱の特徴を教えてください。

高音から低音まで幅広い音域を使うというのが最大の特徴です。「宝石の歌」という有名なアリアがありますが、高い音まで輝くように歌わなければいけません。逆に教会で悪魔と対峙する場面では低音の強い声が求められます。まさにソプラノの音域を存分に使った役です。今回のマルグリートでは、自分の持ち味である中音域をたくさん聴いていただきたいです。

90周年を迎えた歴史ある歌劇団が伝えているのは、物語だけでなく文化。

──今回は藤原歌劇団では29年ぶりの公演ということですね。

実は29年前の公演には当時テノール歌手で私の師匠にあたるジュゼッペ・サッバティーニがファウスト役で出演していました。そういった意味でもご縁を感じています。今回の公演に向けても一度、師匠にレッスンをしていただきました。師匠の教えを受け継いだ藤原歌劇団の「ファウスト」をお見せできたらと思っていますね。「ファウスト」は善と悪が対峙する壮大な人間ドラマです。今の時代は社会でもいろいろなことが起こっていて、まさに善と悪は共存しているように感じています。そういった意味でもこの作品は、今の私たち、今を生きる人たちに響く内容なのではないかと思います。どんな良い人のなかにも、天使と悪魔がいる。それがそのまま舞台で表現されるオペラなので、共感できるところもあるし、なんでそんなことをするの?という疑問もあると思います。そういう部分も楽しんでいただきたいですね。

──藤原歌劇団はどのような団体なのでしょう?

藤原歌劇団は1934年に伝説的なテノール歌手 藤原義江が日比谷公会堂「ラ・ボエーム」を上演したのが最初の公演で、それからオペラを上演し続け、今年で90年を迎えたオペラ団体です。イタリアオペラを中心に数々の海外作品を上演してきました。一歌手としてはこれからも100年、200年と藤原歌劇団が上演し続けられる団体であるように貢献していきたいなと思っています。

──ヨーロッパのオペラを日本で演じる面白さ、魅力を教えてください。

たとえば、海外の方が日本の歌舞伎を演じるというようなイメージですよね。オペラでヨーロッパの歴史、美しさなどを日本の人に感じてもらいたい。そんな想いが始まりだったのだと思います。それからオペラは日本に定着し長年にわたり上演されてきました。物語だけでなく、ヨーロッパ文化そのものを伝えているというのが日本のオペラの魅力だと思います。

就職して働いているときも、いつか歌手として歌いたいと思っていました。

──迫田さんがオペラ歌手を目指したきっかけを教えてください。

中学校の音楽の先生が音楽大学声楽科出身の方だったんです。私の声を聞いてこの曲歌ってみない?とイタリア古典歌曲を教えてくださったり、それをみんなの前で演奏する機会をいただきました。でも、中学、高校と陸上競技に打ち込んでいたので、そのときにはすぐオペラ歌手になろうとは思わなかったんです。その後、大学受験進路を決めるにあたり自分の人生を振り返る中で、小学校のときにみんなで交換したプロフィール帳を見たんです。そうしたら「10年後にオペラ歌手かオリンピック選手になりたい」と書いてありました。陸上は頑張ってきたけど、オペラ歌手の道はまだ志してもいない。そう思って中学の音楽の先生に相談をしたら声楽の先生をご紹介いただきました。いざ始めてみたら歌のほうが楽しくなって(笑)、それで東京藝術大学を受けることにしたんです。

──大学卒業されてすぐにオペラ歌手になられたんですか?

いえ、私は一度一般企業に就職しているんですよ。大学ではそんなに成績が良いわけではなくて、大学院の受験にも落ちてしまいました。音楽を続けていくにしても元手がなければ続けることができませんし、大学卒業後はまず働こうと思ったんです。企業で働いているときも長期休暇や有給を使い、オペラの本場、イタリアに勉強に行くということを4、5年ほど続けました。そうしているなかでサントリーホールのオペラアカデミーに入り、恩師のジュゼッペ・サッバティーニとも出会うことに。新たな出会いもあり経験を積めたこともあり、就職6年目に会社を辞め、歌に絞ろうという決断をしたんです。就職したときには周りに「音楽を辞めたの」といわれることも多かったんですが、自分の中ではそういう意識はありませんでした。いつかチャンスが来たら、歌いたいと、ずっとそう思いながら働いてました。

音楽と一緒だから生まれる説得力。文字だけより何十倍も感動できる。

──オペラの魅力を教えてください。

やはり、オペラの魅力は生の声がダイレクトに届くところだと思います。自分が発した振動がそのまま耳に入ってくる。オペラや声楽以外ではなかなかできない経験だと思います。オペラは、ストーリーだけ見たらなんでそうなるの? というようなお話も多いのですが、歌や音楽が入ることで説得力が生まれます。文字で見るだけより何十倍も感動できる、そういった経験ができるのがオペラの魅力です。

──オペラを初めて見る人が楽しむためのコツがあれば教えてください。

ぜひ、あらすじを先に知っておいていただきたいですね。ストーリーそのものを追うというよりは、音楽と一緒に物語に感動するという楽しみ方がオペラには合っています。ストーリーを知らないと字幕を追うのが忙しくなり、舞台の美しさや音楽に集中ができなくなってしまうと思うので、あらすじだけでも読んで来ていただきたいです。当日は舞台に集中し、耳と目で舞台を感じてください!

素晴らしいスタッフが揃った舞台。ぜひ、生のステージを楽しんでほしい。

──最後にお客様に、メッセージをお願いします。

藤原歌劇団公演「ファウスト」新制作でお届けいたします。
2024年1月27日・28日、東京文化会館の大ホールで皆さまをお待ちしております。指揮者、キャスト陣、スタッフ、本当に素晴らしいメンバーが揃っています。たくさんの方々のお越しをお待ちしております。



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