宮薗節三味線 宮薗千佳寿弥さんにインタビュー

第53回 邦楽演奏会

歴史に名を残す名人たちが紡いできた音を、しっかりと次世代に引き継いでいきたいです。

しっとりとした繊細な音が特徴の三味線音楽「宮薗節」。古曲として江戸時代から続く文化を受け継ぐ宮薗千佳寿弥さんは、初めて聴いたその瞬間から、宮薗節が大好きになったと振り返ります。ここでは、ご自身もご出演される邦楽演奏会の演目について、そして宮薗節の魅力についてお話しを伺いました。

宮薗千佳寿弥(みやぞのせんかずや)

清元節、東明流を学んだ後、宮薗節の修業を始める。宮薗千寿弥を師匠とし、1976年に現在の芸名を許され、浄瑠璃方(語り)として活躍した後に三味線方に転向。2023年、国指定重要無形文化財各個認定保持者(人間国宝)に認定された。

宮薗節のなかでもとても珍しい、おめでたい派手な曲を演奏いたします。

──今回の演目をご紹介ください。

今回は第53回邦楽演奏会で「薗生(そのお)の春」を演奏します。宮薗節は千寿(せんじゅ)派と千之(せんし)派がありまして、今回演奏する「薗生の春」は、二代目宮薗千之家元継承のときのお祝いとして作られた曲です。宮薗節には江戸時代までに作られた古典が10曲、新曲が10曲あるのですが、この曲はその古典10曲の一節一節を集めて作られたおめでたい曲です。宮薗節はほとんどが心中物なので、お祝いの曲というのは珍しいですね。例えば「桂川」「鳥辺山」「夕霧」が宮薗節の3大名曲と言われています。「薗生の春」にはこれらの曲の歌詞が散りばめられており、節付けも元とは変わっています。古典ではほとんど合いの手を入れることはないのですが、この曲には合いの手が入っていて、そこに替手がついていてきれいです。浄瑠璃も素敵で、お祝いの曲ということで優雅で派手、そこが聴きどころですね。

よくぞ今日まで伝わってきた、奥ゆかしくもしっとりとした響きの宮薗節。

──宮薗節はどのようなものでしょう?

“古曲”といわれているものは一中節(いっちゅうぶし)、河東節(かとうぶし)、荻江節(おぎえぶし)、宮薗節があります。歴史はとても古く、宮薗節は、ほとんどの曲が心中物で調子も低く暗く地味な印象があります。低音の中で、節も半音ずつ移るので、邦楽を初めてお聞きになった方は、お経を聞いているようだってよくおっしゃいます。それで、演奏会でもお客様が居眠りしている方が多い(笑)。音がしっとりしており良い気持ちになってしまうようです。三味線も、他のジャンルの三味線と違って調子が低く、皮の張り方も緩いという特徴があるため、三味線屋は大変苦労されると思っています。また5ミリくらいの厚いバチを使うことも特徴です。昔はバチを胴に当てて弾いていたのだと思うのですが、四世千寿(せんじゅ)家元が研究され、胴にバチを当てない弾き方に変えられました。当てる寸前で糸がバチ離れするといいますか、音色がとてもしっとりしていて奥ゆかしい響きで素敵です。そこがもう、なんとも魅力的な音色だと思います。

流派によって弾き方にも違いがあるのが面白いですね。古典は10曲あるとお話しましたが、古い曲はもっとたくさんあったようです。それでもこの10曲のその微妙な節を聴くとよくぞ今日まで伝わってきたなって思いますね。

──お弟子さんにお稽古はどのようにつけてらっしゃるんでしょうか。

個人稽古で浄瑠璃から入って、その後に三味線を稽古するという形ですね。専門的に浄瑠璃だけの方もいますし、三味線だけをされる方もいらっしゃいます。でも、基本的には両方のお稽古をつけられるようになっていただきたいと思っております。宮薗節は地味な印象があると申しましたが、今まで継がれてきた音曲を残していくためにも何かをしていかなきゃいけないと考えております。今でこそテープなどがありますが、昔は耳で聴いて目で見て、自分で譜を取るという形で伝わってきました。宮薗節はなんとも言えない素敵な節回しで、それを名人が代々伝えてきてくださったおかげで今があります。そのことをつくづくありがたかったなと思います。

たくさんの名人から教わった宮薗節を、後世につなぐのが自分の使命です。

──宮薗さんはどのように、宮薗節と出合われたのですか?

養母が小唄をしていまして、私も5歳くらいから小唄を始めました。学生時代はやっていない時期がありましたが、あるときにまた声がかかって、お稽古するとなったのは16歳ぐらいだったと思います。このころからは小唄でプロになろうという気持ちも出始め、清元節その後に宮薗節のお稽古もすることになりました。小唄は19歳の時に師範を取り、浄瑠璃も三味線もずっと並行して全部やっております。私自身が浄瑠璃方だったので、自分も一緒に心の中で唄いながら三味線を弾かしていただいています。浄瑠璃が分かると、良いで入ることが出来ると思います。

先程、お話に出ました四世千寿家元は三味線の名人で、若い頃から拝見させていただいていました。皮を打たずにバチが弾む力が瞬間抜けるという感覚というのでしょうか、とても難しいのですが、これが宮薗節、千寿会の三味線ですね。芸には非常に厳しい師匠でしたが、私はにこやかでいつも優しい師匠の雰囲気をよく覚えています。

──昨年、重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定をお受けになったということで、誠におめでとうございます。今後の抱負をお聞かせください。

昨日と今日とで変わることは本当にありません。今まで通りのことをしっかりとやらせていただき、宮薗節を残していくことが使命だと以前から思っております。伝えていくには10年以上は必要です。ただ覚えて、ただ弾ければいいというものではないので、熟練させたものを伝えていかなくてはと思っています。

出合った瞬間から大好きになった宮薗節、他ジャンルと聞き比べてみるのも面白い。

──宮薗節の魅力を教えてください。

初めてお稽古していただいたのが「梅川」という曲でしたが、私は第一声を聴いたその瞬間から大好きになりました。千寿家元は宮薗節のソフトな音を三味線で残されました。弾いた瞬間、ふわっと割れるといった感覚といいますか、それがしっとりとしていて、とても柔らかい音色なのです。また、浄瑠璃方の千恵師匠はなんとも言えず艶っぽくてまろやか、それでいてさらっと唄っていらっしゃって。私もあのようになりたいと思っていました。なかなか、なれませんけれどね(笑)。

──初めて邦楽に観る際のコツはありますか?

宮薗節は、一度聴いただけではちょっとわかりづらいかもしれませんが、何回も聴いていくうちに良さをわかっていただけるのではと思っています。他のジャンルとは違う雰囲気だと思いますが、都民芸術フェスティバルでは調子が異なるさまざまな曲が演奏されるので、その変化を楽しんでいただければと思います。

宮薗節などの古曲から、義太夫節や長唄など、幅広いジャンルが楽しめる三部構成です。

──最後に、お客様へ、メッセージをお願いします。

来る3月16日土曜日にイイノホールで「第53回邦楽演奏会」が開かれます。各部入替制の三部構成です。ぜひ皆様、いらしてください。よろしくお願いいたします。



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